プロフェッショナルの条件―いかに成果をあげ,成長するか,ピーター・F. ドラッカー,ダイヤモンド社,2000

すべての組織は,変化のためのマネジメントを自らの構造に組み込まなければならない.すなわち,自らが行っていることのすべてを体系的に廃棄できなければならない.数年毎に,あらゆるプロセス,製品,手続き,方針について,「もし現在これを行っていない場合に,今と同じだけの情報を持っているとして,果たしてこれを始めるか」を問わなければならない.もし答えがノーであれば,「今何を行うべきか」を問わなければならない.そして,行動しなければならない.今後ますます,組織は,成功してきた製品,方針,行動について,その延命を図るのではなく,計画的な廃棄を行わなければならない.

組織は社会やコミュニティや家族と異なり,目的に従って設計され,規定される.組織は1つの目的に集中して初めて大きな成果をあげる.目的の多様化や分散は成果を上げるための能力を破壊する.組織は道具であり,専門分化することによって目的遂行の能力を高める.しかも組織は,それぞれが限定された知識を持つ専門家によって構成される.したがって,組織の使命は明確であることが不可欠である.組織の使命は1つでなければならない.さもなければ混乱する.それぞれの専門家が自分の専門能力を中心に動くようになる.自分達の専門能力を共通の目的に向けなくなる.逆に,自分たちの価値観を組織に押し付けようとする.明確な共通の使命だけが,組織を一体化し,成果を上げさせる.組織がますます知識労働者の組織となっていくにつれ,知識労働者の移動は容易になる.したがって,組織は,その最も基本的な資源である能力ある知識労働者を求めて,互いに激しく競争するようになる.

歴史上,働く者とは,何を行うか,いかに行うか,いかなる速さで行うかを指示される存在だった.これに対し,知識労働者は事実上,監督され得ない存在である.その専門について自分よりも詳しく知る者が存在するようでは,価値のない存在である.

組織で働く者は,優れた仕事を行うために,自らの組織の使命が社会において重要な使命であり,他のあらゆるものの基盤であるとの信念を持たなければならない.この信念がなければ,いかなる組織といえども,自信と誇りを失い,成果を上げる能力を失う.

知識労働の生産性の向上を図る場合にまず問うべきは,「何が目的か.何を実現しようとしているか.なぜそれを行うか.」である.手っ取り早く,しかも,恐らく最も効果的に知識労働の生産性を向上させる方法は,仕事を定義し直すことである.特に,行う必要のない仕事をやめることである.

今日,知識労働者の仕事はますます分散しつつある.知識労働を実際に組織で行っている人達は,仕事や給与にはほとんど関係がなく,かつほとんど意味のない余分の仕事を課されて,忙しさを着実に増大させている.知識労働者の仕事は,充実するどころか不毛化している.当然,生産性は破壊される.動機づけも士気も損なわれる.しかし,対策はいたって簡単である.知識労働のそれぞれについて,「何のために給与を払うか」,「この仕事にはどのような価値を付加すべきか」を考えればよい.

知識労働者は自らが教えるときに最もよく学ぶ.情報化時代にあっては,いかなる組織も学ぶ組織にならなければならないと言われる.しかしそれは同時に,教える組織にもならなければならない.

組織で働く者の置かれている状況は,成果を上げることを要求されながら,成果を上げることが極めて困難になっている.まさに,自らが成果を上げられるよう意識して努力しない限り,周りをとりまく現実が彼らを無価値にする.彼ら自身ではコントロールできない4つの大きな現実が,仕事の成果を上げ,業績を上げることを妨げようと圧力を加えてくる.第一に,時間はすべて他人に取られる.身体の動きに対する制約を考えれば,組織の囚人と定義せざるを得ない.第二に,自ら現実の状況を変えるための行動を取らない限り,日常業務に追われ続ける.日常の仕事の流れに任せていては,いたずらに自らの知識と能力とを浪費し,達成できたはずの成果を捨てることになる.第三に,組織で働いているという現実がある.すなわち,他の者が彼の貢献を利用してくれるときにのみ,成果を上げることができるという現実である.第四に,組織の内なる世界にいるという現実がある.誰もが自らの属する組織の内部を最も身近で直接的な現実として見る.外の世界で何が起こっているかは直接的には知り得ない.しかし,組織の中に成果は存在せず,すべての成果は外の世界にある.

組織は存在することが目的ではない.種の永続が成功ではない.組織は社会の機関である.外の環境に対する貢献が目的である.ところが,組織は成長するほど,特に成功するほど,組織で働く者の関心,努力,能力は,組織の中のことで占領され,外の世界における本来の任務と成果が忘れられていく.この危険は,コンピュータと情報技術の発達によってされに増大する.外の世界における真に重要なことは,趨勢ではない.変化である.この外の変化が,組織とその努力の成功と失敗を決定する.しかもそのような変化は,知覚するものであって,定量化したり,定義したり,分類したりするものではない.気を付けなければならないことは,コンピュータの論理やコンピュータ言語では表せない情報や刺激を,やがて軽視するようになることである.現実の知覚的な事象が見えなくなり,過去の事象にのみ関心を持つようになることである.こうして,膨大な量のコンピュータ情報が,外の現実からの隔絶を招く.

仕事や成果を大幅に改善するための唯一の方法は,成果を上げるための能力を向上させることである.成果を上げる方法を知ることこそが,能力や知識という資源からより多くの優れた結果を生み出す唯一の手段である.

知識労働者が貢献に焦点を合わせることは必須である.専門知識は,それだけでは断片に過ぎず,不毛である.必要なのは,自らの産出物たる断片的なものを生産的な存在にするために,それを利用する者に「何を知ってもらい」「何を理解してもらわなければならないか」を徹底的に考えることである.知識ある者は,常に理解されるように努力する責任がある.貢献に責任を持つためには,自らの産出物すなわち知識の有用性に強い関心を持たなければならない.

あらゆる組織において,人材の最大の浪費は昇進人事の失敗である.昇進し,新しい仕事を任された有能な人達のうち,本当に成功する人はあまりいない.この原因は,彼らが,新しい任務に就いても,前の任務で成功していたこと,昇進をもたらしてくれたことをやり続けることにある.新しい任務で成功するうえで必要なことは,卓越した知識や才能ではない.新しい任務が要求するもの,新しい挑戦,仕事,課題において重要なことに集中することである.

人は,何によって人に知られたいかを自問しなければならない.さらに,その問いに対する答えは,年をとるにつれて変わらなければならない.そして,本当に知られるに値することは,人を素晴らしい人に変えることである.

成果を上げるためにすべきこと.
1. ビジョンを持ち,努力を続ける.
2. 仕事に誇りを持ち,完全を求める.
3. 常に新しいことに取り組み,より優れたことを行う.
4. 自分の仕事ぶりを評価・反省する.
5. 自分の行動や決定がもたらすべきものについての期待を記録し,後日結果と比較する.
6. 任務が変われば,新しい仕事が要求することについて徹底的に考え,行動する.

自分の強みを発揮するためにすべきこと.
1. 強みに集中する.
2. 強みをさらに伸ばす.(技能や知識を身に付ける)
3. 知的な傲慢を正す.(専門以外の知識を軽視しない)
4. 悪癖を改める.(成果をあげるのに障害となっていることを改める)
5. 人への対し方を正す.(人間関係は潤滑油である)
6. 成果の上がらないことは行わない.(不得手な分野の仕事は引き受けない)
7. 努力しても並みにしかなれない分野に無駄な時間を使わない.
多くの人達,組織,そして先生が,無能を並みにすることに懸命になっている.

第二次世界大戦後のイギリス経済の不振についてはいろいろ言われているが,その原因の1つは,古い世代の企業人達が,肉体労働者と同じように楽をし,同じように短時間の労働で済まそうとしたことにある.そのようなことが可能なのは,企業にしても,産業界全体にしても,既存の枠にしがみつき,創造と変革を避けることが許される場合だけである.

時間を管理するためにすべきこと.
1. 成果を生まない完全に時間の浪費であるような仕事を見付け,ただちに止める.
2. 自らが行うべき仕事に取り組むために,他の人間でもできることは他の人間に任せる.
3. 自らが原因となって他の人間の時間を浪費しない.時間浪費の原因は排除する.

成果を上げるための秘訣を1つだけあげるならば,それは集中である.成果を上げる人は,多くのことをなさなければならないこと,しかも成果を上げなければならないことを知っている.したがって,自らの時間とエネルギーを1つのことに集中する.最も重要なことを最初に行うべく,集中する.

成果を上げる意志決定を行うためには,問題の性質を理解し,正しい解決策を採用しなければならない.直面する問題のほとんどは,基本的な問題の兆候にしかすぎない.圧倒的に多く見られる間違いは,一般的な状況を特殊な問題の連続として見ることである.一般的な状況としての理解を欠き,解決についての原則を欠くために,現場対応的に処理することである.結果は,常に失敗と不毛である.

我々は,フィードバックのために,組織的な情報収集を必要とする.報告や数字も必要とする.しかし,現実に直接触れることを中心にしてフィードバックを行わない限り,すなわち,自ら出掛けて確かめない限り,不毛の独断から逃れることはできず,成果を上げることもできない.

成果を上げる意志決定を行う者は,事実からスタートすることなどできないことを知っている.誰もが意見からスタートする.しかし,意見は未検証の仮説に過ぎず,現実によって検証しなければならない.最初から事実を探すことを求めるのは好ましいことではない.なぜなら,誰もがするように,既に決めている結論を裏付ける事実を探すだけになるからである.しかも,見付けたい事実を探せない者はいない.

成果を上げるためには,教科書のいうような意見の一致ではなく,意見の不一致を生み出さなければならない.成果を上げる者は,意図的に意見の不一致を作り上げる.そうすることによって,もっともらしいが間違っている意見や,不完全な意見によって騙されることを防ぐ.

情報型組織は多様性を許容するが故に,組織内の個人と部門が,自らの目標,優先順位,他との関係,意志の疎通に責任を持つときにのみ有効に機能する.従来の組織は軍をモデルにしているが,情報型組織はオーケストラに似ている.このため,情報型組織は高度の自己管理を要求すると共に,迅速な意志決定と対応を可能にする.情報型組織の利点は,組織内に相互理解と共通の価値観があって初めて現実のものとなる.情報型組織は自由寛大な組織ではなく,規律の厳しい組織である.そして,強力かつ決定的なリーダーシップを要求する.情報型組織が最も必要とするものは,現場からトップにいたるまで,自己管理と責任のうえに立つリーダーシップである.

リーダーたることの第一の要件は,リーダーシップを仕事と見ることである.効果的なリーダーシップの基礎とは,組織の使命を考え抜き,それを目に見える形で明確に定義し,確立することである.リーダーとは,目標を定め,優先順位を決め,それを維持する者である.リーダーが真の信奉者を持つか,日和見的な取り巻きを持つに過ぎないかも,自らの行為によって範を示しつつ,いくつかの基礎的な基準を守り抜けるか,捨てるかによって決まる.

リーダーたることの第二の要件は,リーダーシップを地位や特権ではなく責任と見ることである.優れたリーダーは常に厳しく,失敗を人のせいにしない.真のリーダーは,自らが最終責任を負うべきことを知っているが故に,部下を恐れない.優れたリーダーは強力な部下を求める.部下を激励し,前進させ,誇りとする.ところが,似非リーダーは部下を恐れ,部下の追放に走る.

リーダーたることの第三の要件は,信頼が得られることである.信頼することは好きになることではない.常に同意できるということでもない.リーダーの言うことが真意であると確信を持てることである.このため,リーダーが公言する信念とその行動は一致しなければならない.

成果を上げるためには,人の強みを活かさなければならない.人に成果を上げさせるためには,「自分とうまくやっていけるか」を考えてはならない.「どのような貢献ができるか」を問わなければならない.「何ができないか」を考えてはならない.「何を非常に良くできるか」を考えなければならない.真に厳しい上司とは,それぞれの道で一流の人間を作る人である.彼らは部下が良くできるはずのことから考え,次に,その部下が本当にそれを行うことを要求する,上司は部下の仕事に責任を持ち,そのキャリアを左右する.したがって,強みを活かす人事は,成果を上げるための必要条件であるだけでなく,倫理的な至上命令,権力と地位に伴う責任である.弱みに焦点を合わせることは,間違っているだけでなく,無責任である.一方,成果を上げるためには,上司の強みも活かさなければならない.上司の強みを活かすことは,部下自身が成果を上げる鍵である.

イノベーションの方法として提示し、論ずるに値するのは、目的意識、体系、分析によるイノベーションだけである。

イノベーションのためになすべきこと
第一に、イノベーションを行うためには、機会を分析することから始めなければならない。1)予期せぬこと、2)ギャップ、3)ニーズ、4)構造の変化、5)人口の変化、6)認識の変化、7)新知識の獲得、これら7つの機会のすべてについて、体系的に分析することが必要である。もちろん、イノベーションの分野が異なれば、機会の種類も異なる。時代が変われば、機会の重要度も変わっていく。
第二に、イノベーションとは、理論的な分析であるとともに、知覚的な認識である。したがって、イノベーションを行うためには、外に出、見、問い、聞かなければならない。
第三に、イノベーションに成功するためには、焦点を絞り、単純なものにしなければならない。イノベーションに対する最高の賛辞は、「なぜ自分には思いつかなかったか」である。
第四に、イノベーションに成功するためには、小さくスタートしなければならない。大がかりであってはならない。具体的なことだけに絞らなければならない。
第五に、イノベーションに成功するためには、最初からトップの座を狙わなければならない。

イノベーションのためになすべきでないこと
第一に、懲りすぎてはならない。イノベーションの成果は普通の人間が利用できるものでなければならない。
第二に、多角化してはならない。
第三に、未来のためにイノベーションを行おうとしてはならない。

成功するイノベーションの条件
第一に、イノベーションは集中でなければならない。イノベーションとは意識的かつ集中的な仕事である。勤勉さと持続性、それに献身を必要とする。これらがなければ、いかなる知識も創造性も才能も無駄となる。
第二に、イノベーションは強みを基盤としなければならない。
第三に、イノベーションは経済や社会の変革を目指さなければならない。

歴史上初めて、人の寿命が組織の寿命よりも長くなった。そのため、第二の人生をどうするかという、まったく新しい問題が生まれた。ほとんどの者にとって、同じ種類の仕事を4,50年も続けるのは長すぎる。飽きる。惰性になる。まわりの者も迷惑する。知識労働者にとって第二の人生を持つことが重要である理由は、仕事や人生において挫折することがあり得るからである。逆境のとき、単なる趣味を越えた第二の人生、第二の仕事が大きな意味を持つ。このことは、成功が意味を持つ社会では特に重要である。

自らの成長のために最も優先すべきは、卓越性の追求である。自らを成果を上げる存在にできるのは、自らだけである。他の人ではない。したがって、まず果たすべき責任は、自らの最高のものを引き出すことである。ばかな上司、ばかな役員、役に立たない部下についてこぼしても、最高の成果は上がらない。成功の鍵は責任である。自らに責任を持たせることである。責任ある存在になるということは、真剣に仕事に取り組むということであり、成長の必要性を認識するということである。成長するということは、能力を修得するだけでなく、人間として大きくなることである。責任に重点を置くことによって、より大きな自分を見られるようになる。うぬぼれやプライドではない。誇りと自信である。

自らが価値ありとするところで働くのでなければ、人は自らを疑い、自らを軽く見るようになる。あるいはまた、上司が人を操ったり、自分のことしか考えないことがある。さらに困ったことに、上司が最も大切な仕事、つまり部下を育て、励まし、引き上げる役目を果たさないことがある。このように自らがところを得ていないとき、あるいは組織が腐っているとき、あるいは成果が認められないときには、辞めることが正しい選択である。出世は大した問題ではない。重要なのは、公正であることであり、公平であることである。

日常化した毎日が心地よくなったときこそ、違ったことを行うよう自らを駆り立てる必要がある。