なぜ日本は没落するか

なぜ日本は没落するか
森嶋通夫,岩波書店,1999

なぜ日本は没落するか

日本の将来を憂える方へ.日本が進むべき道とは?

「なぜ日本は没落するか」についてのメモ

「日本は今危険な状態にある」という認識のもと,日本が現在のように酷い状態になってしまった原因を考察し,その考察の延長線上に2050年頃の日本を予測している.日本の没落はもはや避けることができない状況にまで追い込まれているというのが,著者のメッセージだ.ただし,ここでいう没落は経済的な貧困を意味するものではなく,むしろ政治的な意味で用いられている.つまり,日本は国際政治の舞台で無視しうる存在になり果てるということだ.これは,政治的イノベーションを起こせる政治家や独自の政治プログラムを持つ政治家がいないこと,またそのような政治家が生まれる土壌がないことによる.

本書では,イギリスと日本を対比させながら,精神,金融,産業,教育の各観点から没落が予測される根拠が論じられている.精神と教育とは不可分の関係にあるだろうが,戦後教育は多くの問題を持つ.日本は社会階級が各人の学業成果によって決まる儒教国家であり,親は子に高等教育を受けさせたいと願う.そして,文部省の大学生量産計画もあり,誰でも気軽に大学生になれるようになった.暗記は得意だが論理的思考ができず,意志決定力や価値判断力が貧弱な大学生が溢れ,もはや高等教育は機能していないと言える.それでも,日本の将来はそのような学生に託されるのであるから,暗い将来像を描くことは難しくない.著者は,「平等の名において選別をなくするのは,子供に対する愚民化政策である」と指摘し,論理的思考能力の重要性や教え過ぎの弊害を述べ,大学進学率を抑制することを含む独自の教育改革案を示している.

小学校等における「かけっこ」に順位を付けない運動会は好例ではないだろうか.早く走れる子供が誉められることはないし,達成感を味わうこともない.日本人は誉めるのが下手で,足の引っ張り合いばかりをすると言われるが,国を挙げてここまで徹底すれば大したものだ.各界において国際的な舞台で活躍する人材を育成するという考えは全くないのだろうか.少なくとも,私個人としては,大学卒業証書が何の価値も持たない現在の状況が改善されることを願う.勉強しない学生が卒業できてしまうのはおかしいし,それを許している大学側は非難されるべきである.現状は,いかに大学が教育を軽んじているかを示している.

日本を没落から救う方法として,東北アジア共同体を作ることが提案されている.その実現に向けては,歴史認識の問題を解決する必要があるし,政治家が積極的に行動する必要もある.しかし,現在の状況は絶望的であり,いずれ日本がアジアで孤立し,国際社会からも無視しうる存在になってしまうかもしれないことを直視すべきである.最近のイギリスのテレビが「日本人はまだ前の戦争から学んでいない」と放送したそうだ.このことを,どう受け止めるか.

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