本を読む本

本を読む本
M.J. アドラー,C.V. ドーレン,講談社,1997

読む価値のある良書を自分の力で読むための技術を教えようとする本である.本書の意図は,次のようにまとめられている.

学生時代には誰でも,教師の手ほどきで難解な本に取り組むものである.だが,自分の読みたいものを読むときや,学校を出てから教養を身に付けようと すれば,頼るものは教師のいない読書だけである.だからこそ,一生の間ずっと学び続け,「発見」し続けるには,いかにして書物を最良の師とするか,それを 心得ることが大切なのである.この本は,何よりもまず,そのために書かれたものである.

本を読む際には,点検読書が有力なツールとなる.点検読書とは,限られた時間で,本の概要を掴むための読書法である.そのために,序文や目次を活用 し,最初と最後に書かれていることを中心に,拾い読みをする.この点検読書を修得すれば,読む価値のある本とそうでない本を見分けられるようにもなる.

その上で,読む価値のある本を読むための読書法が分析読書である.本書によると,その分析読書とは,以下のように行われるものである.

分析読書の規則

T 分析読書の第一段階

――何についての本であるか見分ける――

(1)種類と主題によって本を分類する.
(2)その本全体が何に関するものかを,できるだけ簡潔に述べる.
(3)主要な部分を順序よく関連づけてあげ,その概要を述べる.
(4)著者が解決しようとしている問題が何であるかを明らかにする.

U 分析読書の第二段階

――内容を解釈する――

(5)キーワードを見付け,著者と折り合いをつける.
(6)重要な文を見付け,著者の主要な命題を把握する.
(7)一連の文の中に著者の論証を見付ける.または,いくつかの文を取り出して,論証を組み立てる.
(8)著者が解決した問題はどれで,解決していない問題はどれか,見極める.未解決の問題については,解決に失敗したことを,著者が自覚しているかどうか見定める.

U 分析読書の第三段階

――知識は伝達されたか――

(A)知的エチケットの一般的心得

(9)「概略」と「解釈」を終えないうちは,批評にとりかからないこと.
(10)けんか腰の反論はよくない.
(11)批評的な判断を下すには,十分な根拠を挙げて,知識と単なる個人的な意見を,はっきり区別すること.

(B)批判に関して特に注意すべき事項

(12)著者が知識不足である点を,明らかにすること.
(13)著者の知識に誤りがある点を,明らかにすること.
(14)著者が論理性に欠ける点を,明らかにすること.
(15)著者の分析や説明が不完全である点を,明らかにすること.

点検読書と分析読書の他,本書では,それらの発展形であるシントピカル読書についても説明がなされている.

職業柄,学術論文を大量に読んできた私にとっては,本書で述べられている読書法は,学術論文の読み方に大変似ているという印象を受けた.いや,むし ろ,全く同じものだと言っても差し支えないだろう.そう言う意味では,別に新鮮でも何でもなかった.しかし,私の場合,このような読書技術を必要に迫られ て訓練して身に付けたわけだが,そういう環境にない人達は,十分な読書技術を身に付ける機会がなく,本が読めないということもあるのかもしれない.そうい う意味では,一度読んでおく価値はある本だと思う.

本書の締め括りの言葉を再掲しておこう.

すぐれた読書とは,我々を励まし,どこまでも成長させてくれるものなのである.

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