本書は,2003年に出版された「年収300万円時代を生き抜く経済学」および「続年収300万円時代を生き抜く経済学」を再編集したものである.一粒で3度美味しい年収300万円本だ.
市場経済を尊び,弱肉強食を是とし,アメリカ型社会を範とする日本の社会は,今まさに,一部の大金持ちと大多数の貧乏人へと両極化している.その大多数の貧乏人の年収が300万円台になるという予想が本書のタイトルに現れている.しかし,収入の多寡で幸不幸が決まるわけではない.何を目的に生きるか,何に幸せを見出すか,これらの問いに改めて答えてみるべきだ.経済的・物質的豊かさを追い求めてきた過去と決別し,自分のしたいことをして,人生を楽しむ.贅沢をしなければ,年収300万円でも十分に人生を楽しむことができる.そのように著者は言う.確かに,それも素晴らしい生き方だと思う.
本書は,年収300万円でも幸せに生きようというだけでなく,現在の日本の経済状態についても詳しく述べている.なぜ,ITバブルが生じたのか,すぐにでも解消できるデフレを放置したのか,不良債権処理を強行したのか.そして,これから起こるインフレによって,そのストーリーが完結し,新しい日本の社会が姿を現すとき,小泉構造改革が何だったかが明らかになると.著者の主張の真偽はともかく,このような見方もあることを知るのは良いことだ.さらに,デフレからインフレに転換するときには株と不動産で稼げと檄も飛ばす.
切れ味鋭い語り口で,読みやすく,面白く,書かれている. |