なぜフィンランドの子どもたちは「学力」が高いか

なぜフィンランドの子どもたちは「学力」が高いか
教育科学研究会,国土社,2005

なぜフィンランドの子どもたちは「学力」が高いか

経済国際開発機構(OECD)が2003年に実施した国際学力調査(PISA; Programme for International Student Assessment)の結果で,日本の読解リテラシーは8位から14位に低下し,トップグループとは明らかな差があるとされた.また,数学リテラシーも1位から6位に低下した.一方,この調査で国際的な注目を集めたフィンランドは,読解リテラシーと科学リテラシーが1位,数学リテラシーが2位,問題解決能力が3位で,総合で1位だ.ちなみに,PISAは,詰め込み型教育の成果を評価するものではない.単に知識が豊富というだけではなく,問題解決,批判的思考,コミュニケーションなどの能力が重視される.

PISAの意図をふまえると,授業時間を増やして知識を詰め込んでも,少なくともPISAの評価は向上しない.実際,フィンランドの授業時間数は非常に短く,宿題はほとんどなく,生徒は塾にも通わないそうだ.また,フィンランドでは総合学習が重視されており,そのテーマは,個人的・人間的な成長,文化的同一性と国際化,コミュニケーションとメディア技術,参加型市民性と起業家精神,環境・福祉と持続的未来,安全と交通,人間と技術など多岐にわたる.

家庭における読書時間が長いのもフィンランドの特徴で,フィンランドの子供の校外での学習時間は日本より短く,世界で最低水準だが,読書量は世界一だ.当然ながら,大人の読書習慣も世界で最高水準だ.

さらに,フィンランドの教育の成功の要因として,教師の質の高さが挙げられる.教師の給与は高くはないが,フィンランドにおいて教師は最も魅力的な職業であり,その社会的地位,信頼の高さは,教職を最も優秀な人がつく職業にしている.フィンランドでは,幼児教育は学部レベルだが,初等教育と中等教育は最短で5年を要する大学院レベルで,教師は全員が修士号取得者だ.

フィンランドの教育の優秀性は,1992年以降の未曾有の経済不況の克服過程で達成された.フィンランドは失業率20%という深刻な状況にあったが,そのような状況で政府が推進した政策は,国家公務員の増加による失業者の救済と,知識社会の到来を見通した教育改革の推進だった.その結果,10年後の2002年には,世界一の学力を達成しただけでなく,経済の競争力においても世界一の地位を獲得した.

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