「牛乳は完全食品だからみんな絶対飲みましょう」などという馬鹿げたキャンペーンを国家的に推進したものだから,その反動も大きく,牛乳論争などというものが勃発した.しかし,牛乳も食品の一つにすぎず,完全食品であるわけがないのと同様,100%害悪であるはずもない.牛乳擁護派(既得権者であることも多いので要注意)の言うことも,牛乳反対派の言うことも,鵜呑みにしてはならない.賢い消費者であるためには,冷静に判断しないといけない.
本書は牛乳反対派の立場から書かれたもので,医学博士である著者の専門能力を活かして,牛乳が健康を害する場合があり,積極的に飲む理由はないということを,様々な例を挙げながら説明している.利用されているデータが古いなどの問題点もあるが,本書で示されているように,牛乳が原因で病気になる可能性があることは承知しておくべきだ.そもそも,牛乳は牛の赤ちゃんを育てるためのものであり,人間の赤ちゃんを育てるためには母乳があるのだから.そして,牛乳の成分と母乳の成分は違う.つまり,牛に必要なものと人間に必要なものは違うのだ.そこに目をつぶって,カルシウムのことだけを考えて,脂肪分の多い牛乳をガバガバと飲めば,当然バランスが崩れる.さらに付け加えると,成長した牛は牛乳を飲まない.必要ないからだ.なぜ,人間だけがいつまでも乳に頼る必要があるのか.
いつも言っているのだが,日本政府は国民を守ってはくれないことも肝に銘じておくべきだ.育児には母乳が原則であり,感染防御という観点からは,人工栄養は母乳の代用になりえない.その事実を無視した先進国の乳業各社の暴挙に対処するため,WHOは「母乳代替品の販促活動に関する国際基準」を制定したが,日本政府は「乳業の発展を妨げる」として棄権した.そして,東南アジアなどで粉ミルクの販促活動について基準を守るよう,国際児童基金からクレームをつけられた.なんとも嘆かわしいことだ.
以下,著者が指摘していることの一部を列挙しておく.
- 牛乳はあくまでも子牛のための食料である
- 【この世でもっとも過大評価されている食品の実態】
- 牛乳は小児の鉄欠乏症貧血の原因になるだけでなく,多くの人にとって胃けいれん,下痢,アレルギー,アテローム硬化,心臓発作の原因になる可能性がある.
- 牛乳に含まれる糖質,タンパク質,脂質は,どれをとっても人体に悪影響を及ぼす恐れがある.
- 【牛乳の糖質は消化器症状を引き起こしやすい】
- 世界中の四歳以上の人々の大多数はラクターゼが欠損しており,牛乳を飲むと胃腸の不快感を訴える乳糖不耐症である.
- 健康な成人における乳糖不耐症の割合は,アメリカ白人で8%,黒人で70%,日本人では8%にのぼる.
- 乳糖不耐症の人たちの60〜75%は,普通牛乳をコップ一杯飲んだだけでも胃腸障害を起こす恐れがあり,胃けいれん,腹部膨満感,放屁症状,げっぷなどの消化器症状に悩まされやすい.
- 小児の再発性腹痛の簡単かつ確実な解決策は,牛乳・乳製品の摂取をやめさせることである.
- 【牛乳のタンパク質はアレルギー体質をつくりやすい】
- 牛乳に含まれているタンパク質は,アレルギー反応を引き起こしやすい.
- 子供に牛乳を大量に飲ませると鉄欠乏性貧血を起こし,イライラ,無気力,注意力散漫の原因になりやすい.
- 牛乳アレルギーの症状は,下痢,湿疹,反復性の嘔吐,再発性の鼻づまり,再発性の気管支炎である.
- ネフローゼをわずらっている子供に薬剤による治療効果が期待できない場合,食事から牛乳を除去すれば,タンパク尿が治まり,かなりの改善が見られる.
- 虫垂炎の患者に共通する生活習慣として,牛乳の多飲がある.
- 【牛乳の脂肪は心筋梗塞・脳卒中・ガンのリスクを高める】
- 牛乳に含まれている脂肪はアテローム硬化の原因となり,やがて脳卒中や心筋梗塞といった生活習慣病を引き起こす恐れがある.
- アメリカの乳業各社が脱脂乳と低脂肪乳を大量生産するようになったのは,自社製品に含まれる乳脂肪が人体に害を及ぼす可能性があることを懸念しているからである.
- 食生活とアテローム硬化の因果関係を調べた研究はすべて,牛乳が人間の食料として不適切であることを裏付けている.
- 脂肪の摂取は,がんの発生と因果関係がある.
- 【人工ミルクは赤ん坊を病気にかかりやすくする】
- 人工ミルクは成分的には母乳に近づいているが,感染防御効果の点で母乳に近づくことはできない.
- 赤ん坊が感染防御効果という母乳の恩恵に浴するには,母乳だけを飲ませなければならない.
- 母乳の加熱・殺菌・成分調整は,母乳が本来持っている感染防御機構を破壊する.
- 先進国の乳業各社が哺育法を商業化して金儲けの対象にした結果,途上国では多くの赤ん坊の命が失われている.
- 【牛乳はカルシウム源として不適切】
- 世界の大多数の人々は,比較的少ない量のカルシウムしか摂取していないのに,総じて強い骨と健康な歯をもっている.
- 母乳は牛乳に比べてカルシウムの含有量がわずか四分の一しかないが,母乳栄養児の方が人工栄養児よりも多くのカルシウムを吸収している.
- 野菜やその他の食品の方が牛乳よりも優れたカルシウム源となる.
- 【牛乳は青少年の精神面に悪影響を及ぼす】
- 子供が落ち着かずに動き回る場合,牛乳が原因であることが多い.
- 緊張,疲労,鼻づまりの場合,牛乳・乳製品を食事から除去すると諸症状は短期間のうちに改善する.
- 【牛乳は完全食品の名に値しない】
- 一般に,牛乳には,世界中の人々のほとんどに有害な症状を引き起こす乳糖,多くの乳幼児にアレルギーを起こすタンパク質,すべての成人にとって気がかりな乳脂肪の3つが含まれている.
- お腹がゴロゴロするので牛乳を苦手にしている人でも,ヨーグルトなら乳糖が乳酸菌の働きで分解されているので,少なくとも乳糖不耐症の問題は生じない.
|