ロジカル・シンキング―論理的な思考と構成のスキル

ロジカル・シンキング―論理的な思考と構成のスキル
照屋華子,岡田恵子,東洋経済新報社,2001

コンサルティング大手マッキンゼーのエディターとして活動している著者が,「ロジカル・コミュニケーション」について解説した書籍.

何のためにコミュニケーションをするのかという本質的な問いから始まり,目的を達成する(相手を納得させる)コミュニケーションを行うための技術として,話の漏れや重複をなくす”MECE”(ミッシー)と,話の飛びをなくす”So What?”/”Why So?”という手法を紹介している.

論理的に考えることができている人であれば,ここに書かれている内容は,無意識にそうしているなと思えるものが多いだろう.本書を読んで偉いなと思うのは,こうすれば論理的に考えることができる,相手を説得することができるというノウハウを,人に伝えられる形でまとめている点だ.演習問題も豊富で,特にビジネスパーソンには参考になるだろう.

以下,もう少し詳しく内容を見ておこう.

まず,大切なことは「私が申し上げたいこと」ではなく,「相手に伝えるべきメッセージ」だと著者は指摘している.著者の定義によると,メッセージとは次の3要件を満たしているものである.第1に,そのコミュニケーションにおいて答えるべき課題(テーマ)が明解であること.第2に,その課題(テーマ)に対して必要な要素を満たした答えがあること.第3に,そのコミュニケーションの後に,相手にどのように反応してもらいたいのか,つまり相手に期待する反応が明らかであること.

確かに,上記の3要件は大切だ.仕事柄,様々な企業や学会から講演依頼をいただくが,その際,この3つは間違いなく確認している.つまり,「何についての講演を依頼されているのか?」を主催者に確認すると共に,「依頼された講演を行う能力があるか?」と自問自答する.主催者に確認するのは,講演テーマだけでなく,主催者が自分に何を求めているのかということだ.講演内容,想定される聴講者,主催者が聴講者に伝えたいこと,主催者が期待する講演の成果,などについて納得できるまで,かなり執拗に質問するので,驚かれることも少なくない.しかし,これらが明確でない講演をやったところで,期待される成果は得られないだろう.というか,これらが明確でないということは,期待する成果すら定義されていないわけだから,成功も失敗もないのだろうが.ただ,そういう講演を引き受けるほど暇なわけでもない.各々の部署,企業,産業界などで役立つ技術について易しく解説することを望まれるケースが多いが,トップも含めて,その有用性に懐疑的な人達が多いのが現実であるため,「事業の決定権を持つトップマネージメントを説得すること」が講演成果である場合も少なくない.

課題と相手に期待する反応が定まったら,答えの中身を考えなくてはならない.著者は,ビジネスにおいて課題の答えとして備えるべき要素は次の3つだとしている.答えの核である「結論」,結論の妥当性を説明する「根拠」,そして結論がアクションの場合にどうやって実行するのかを説明する「方法」だ.

コミュニケーションの後に,こちらが期待する反応を相手に起こしてもらいたいわけだから,答えには説得力がなければならない.説得力のない答えに共通するのは,(1)話の明らかな重複・漏れ・ずれ,(2)話の飛び,という欠陥があることだと著者は指摘している.このような欠陥をなくす技術が,”MECE”と”So What?”/”Why So?”である.

“MECE”とは,”Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive”の略で,「ある事柄を重なりなく,しかも漏れのない部分の集合体として捉えること」を意味する.全体をいくつかの部分に分割する場合には,重複・漏れ・ずれをなくすために,常に”MECE”に行うように注意しなければならない.

“So What?”は「結局どういうことなのか?」と問う作業であり,提示する情報から論理的に導かれる結論を抽出するために用いる.これとは逆に,”Why So?”は「なぜそのようなことが言えるのか?」と問う作業であり,結論が提示する情報から導かれるかどうかを検証・確認するために用いる.この”So What?”/”Why So?”をセットで用いることで,話の飛びをなくすことができる.

“MECE”にしろ,”So What?”/”Why So?”にしろ,何を今更という感がある.しかし,この種の本(ロジカルなんとか系)がよく売れることからもわかる通り,論理的に考えられない,話せない人が世の中には少なくないわけで,論理的に考え,話す技術を修得可能な形で示すという点で,本書や類書には存在価値があるのだと思う.

以上のような技術を持って,論理を構成していくわけだが,著者は論理を以下のように定義している.「論理とは,結論と根拠,もしくは結論と方法という複数の要素が,結論を頂点に,縦方向にはSo What?/Why So?の関係で階層をなし,また横方向にはMECEに関係づけられたものである.」

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