リーダーの易経―時の変化の道理を学ぶ

リーダーの易経―時の変化の道理を学ぶ
竹村亞希子,PHPエディターズグループ,2005

まず始めに指摘しておくべきことは,「易経」は単なる占いの本ではないということだ.本書でも最初にこの点を指摘している.ここを理解できないと,「占いなんて・・・」という至極当然の反応を起こし,折角のチャンスを逃してしまう.

易経は四書五経の筆頭にあげられる儒教の経典であり,帝王学の書,すなわち国を治める君主が学ぶべき書物とされてきた.なぜ,占いと帝王学が関係するのかと言えば,わずかな兆しから将来を察する直観力が,時の流れを見抜く洞察力が,栄枯盛衰の変化の道理をわきまえることが,リーダーには求められるためだ.将来を見通すのに必要なのは占いなのではない.時の変化の原理原則を知ることだ.荘子には「占わずして吉凶を知る」と,荀子には「善く易を為むる者は占わず」とある.そのためのテキストが「易経」である.

本書は,易経の内容を帝王学(リーダー論)という観点から平易に解説したものである.易経に示されている六十四卦の中から,最も代表的な卦である乾為天を詳述し,その他のいくつかの卦をもって補足している.乾為天は,龍伝説に喩えて記されており,地に潜んでいた龍が力をつけ,飛龍になって勢いよく昇り,そして降り龍となるという龍の成長過程になぞらえて,栄枯盛衰の変遷過程を説いている.そこには,人や組織の成長と衰退の原理原則が明らかにされており,成長の各段階において,リーダーとして為すべきことが示されている.

乾為天において,龍は次の六段階を経るとされる.

  1. 潜龍:地に潜み隠れたる龍.
    確乎とした高い志を描き,実現のためにの力を蓄える段階.
  2. 見龍:人を見て学ぶ龍.
    師となる人物を見付け,基本を修養する段階.
  3. 君子終日乾乾す:一日中,朝から晩まで,意志をもって努力する龍.
    自分の頭で考えて創意工夫し,独自性を生み出そうとする段階.
  4. 躍龍:タイミングを計る龍.
    独自の世界を創る手前の段階.
  5. 飛龍:大空を飛翔する龍.
    一つの志を達成し,隆盛を極めた段階.
  6. 亢龍:傲り高ぶりのために降り龍となる.
    一つの達成に行き着き,窮まって衰退していく段階.

この乾為天が易経を代表する卦である理由は,乾為天がすべて陽からなるためだ.易経は陰陽思想を基礎とするが,陰と陽は1つのものの二面であり,陰と陽は変化して循環し,陰と陽は交ざり合うことで新たなものへと進化する.陰と陽のいずれか一方がなくなれば,変化,成長,発展はない.この観点から,すべて陽からなる乾為天の危険性が窺い知れる.このため,潜龍,見龍,君子終日乾乾す,躍龍を経て,飛龍へと成長していく過程において,陰の要素が重要だと指摘されている.

陽は,積極,剛健,推進を表す.陽は強く,常に前に進む.このため,飛龍はワンマンになりやすく,自分の力を誇示して,周りと能力を競ってでも大将でいたいと思う.人の言うことは聞かないで,自己主張する.飛龍が亢龍にならないためには,受容,寛容という陰の要素が肝心である.易経が説く陰陽思想とは,このようなものである.

リーダーたらんとする志を持つのであれば,易経の教えに耳を傾けるべきであろう.

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