やさしい教育心理学

やさしい教育心理学
鎌原雅彦,竹綱誠一郎,有斐閣,2005

やさしい教育心理学

元々は,教職に就こうという人が教育心理学の基本を学ぶための書籍という位置付けだろうが,一般人にも十分興味深い内容だ.しかも,内容を身近に感じられるように上手に工夫されていて,大変読みやすい.流石,教育心理学の専門家が書いただけのことはある.「教育心理学」に興味があるかどうかは別として,とにかく読んでみて損はないと思う.

「パブロフの犬」は有名だ.これは,ロシアの生理学者パブロフが行った実験で,犬にエサを与えるときにメトロノームの音を鳴らすことを続けると,やがて,犬はメトロノームの音を聞いただけで唾液を出すようになったというもの.あなたは虫に触れますか.ゴキブリならともかく,カブトムシも触れないという人もいるだろう.虫嫌いの人は,小さい頃,虫を見て大騒ぎするお母さんが怖くて,虫嫌いになったのかもしれない.つまり,メトロノームの音→エサ→唾液と同じように,虫→お母さんの叫び声→恐怖感という学習の結果かもしれないわけだ.虫嫌いに限らず,私達が感じる恐怖感や好き嫌いは,古典的条件付けによる学習,すなわち条件反射で説明できるものが多いらしい.

保育園や幼稚園で,他の子供達と一緒に遊ぶのが苦手な子供がポツンと一人でいるとき,先生はどうするか.恐らく,その子供に歩み寄り,「友達と一緒に遊ぼうね」と優しく促すだろう.そして,子供が他の子供達のところへ行くと,次の仕事のためにその場を離れる.この先生の行動は自然だが,先生が優しくしてくれることが子供にとって嬉しいこと(報酬)であるとすると,このような先生の行動は,子供が独りぼっちでいる行動に報酬を与え,他の子供達と一緒に遊ぶ行動には報酬を与えないことになる.すると,子供は,独りぼっちでいれば先生が優しくしてくれることを学習し,ますます他の子供達と遊ばなくなってしまうかもしれない.

元々やる気のある人であっても,経験による学習の結果,無気力になってしまうことがある.行動しても無駄だと学習してしまう場合だ.学習意欲に乏しく全然勉強しない子供も,元々は,わかるようになりたい,良い成績を取って親を喜ばせたいと思っていただろう.ところが,勉強しても理解できなかったり,成績が良くならなかったりしたために,勉強しても無駄だと学習してしまう.子供が学習意欲を持つためには,勉強が無駄ではないと学習する必要がある.つまり,勉強の成果を実感できる仕掛けが必要だ.

これらは本書の内容の一例だが,特に,子供を持つ親にとって参考になる話題が盛り沢山だ.

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