佐藤一斎「人の上に立つ人」の勉強―45分で読める『言志四録』+『重職心得箇条』

佐藤一斎「人の上に立つ人」の勉強―45分で読める『言志四録』+『重職心得箇条』
佐藤一斎(著),坂井昌彦(翻訳),三笠書房,2002

人の上に立つ人の心構えや戒めて,江戸時代から今なお読み継がれている「言志四録」と「重職心得箇条」の現代語訳と解説である.著者の佐藤一斎は多くの人材を育成したが,その門下生には,吉田松陰,坂本龍馬,勝海舟らも師事した佐久間象山も含まれる.

じっくりと味わい,自分の血肉としたい.なお,本書は「言志四録」の僅かと「重職心得箇条」を紹介するものであるため,1時間もあれば読破できる.45分で読めるというのは,そういうことだ.

重職心得箇条

  • 第1条
    重職と申すは,家国の大事を取計べき職にして,此重の字を取失い,軽々しきはあしく候.大事に油断ありては,其職を得ずと申すべく候.先づ挙動言語より重厚にいたし,威厳を養うべし.重職は君に代わるべき大臣なれば,大臣重うして百事挙ぐるべく,物を鎮定する所ありて,人心をしつむべし,斯の如くにして重職の名に叶うべし.又小事に区々たれば,大事に手抜あるもの,瑣末を省く時は,自然と大事抜目あるべからず.斯の如くして大臣の名に叶うべし.凡そ政治名を正すより始まる.今先づ重職大臣の名を正すを本始となすのみ.
  • 第2条
    大臣の心得は,先づ諸有司の了簡を尽さしめて,是を公平に裁決する所其職なるべし.もし有司の了簡より一層能き了簡有りとも,さして害無き事は,有司の議を用いるにしかず.有司を引立て,気乗り能き様に駆使する事,要務にて候.又些少の過失に目つきて,人を容れ用る事ならねば,取るべき人は一人も無之様になるべし.功を以て過を補はしむる事可也.又賢才と云う程のものは無くても,其藩だけの相応のものは有るべし.人々に択り嫌いなく,愛憎の私心を去て,用ゆべし.自分流儀のものを取計るは,水へ水をさす類にて,塩梅を調和するに非ず.平生嫌いな人を能く用ると云う事こそ手際なり,此工夫あるべし.
  • 第3条
    家々に祖先の法あり,取失うべからず.又仕来仕癖の習あり,是は時に従て変易あるべし.兎角目の付け方間違うて,家法を古式と心得て除け置き,仕来仕癖を家法家格などと心得て守株(しゅしゅ)せり.時世に連れて動すべきを動かさざれば,大勢立たぬものなり.
  • 第4条
    先格古例に二つあり,家法の例格あり,仕癖の例格あり,先づ今此事を処するに,斯様斯様あるべしと自案を付,時宜を考えて然る後例格を検し,今日に引合すべし.仕癖の例格にても,其通りにて能き事は其通りにし,時宜に叶わざる事は拘泥(こうでい)すべからず.自案と云うもの無しに,先づ例格より入るは,当今役人の通病なり.
  • 第5条
    応機と云う事あり肝要也.物事何によらず後の機は前に見ゆるもの也.其機の動きを察して,是に従うべし.物に拘りたる時は,後に及んでとんと行き支えて難渋あるものなり.
  • 第6条
    公平を失うては,善き事も行なわれず.凡そ物事の内に入ては,大体の中すみ見えず,姑(しばら)く引除て活眼にて惣体の体面を視て中を取るべし.
  • 第7条
    衆人の厭服する所を心掛べし,無利押付の事あるべからず.苛察を威厳と認め,又好む所に私するは皆少量の病なり.
  • 第8条
    重職たるもの,勤向繁多と云う口上は恥べき事なり.仮令(たとえ)世話敷とも世話敷とは云わぬが能きなり.随分手のすき,心に有余あるに非れば,大事に心付かぬもの也.重職小事を自らし,諸役に任使する事能わざる故に,諸役自然ともたれる所ありて,重職多事になる勢あり.
  • 第9条
    刑賞与奪の権は,人主のものにして,大臣是を預るべきなり,倒に有司に授くべからず,斯の如き大事に至ては,厳敷透間あるべからず.
  • 第10条
    政事は大小軽重の弁を失うべからず.緩急先後の序を誤るべからず.徐緩にても失し,火急にても過つ也,着眼を高くし,惣体を見廻し,両三年四五年乃至十年の内何々と,意中に成算を立て,手順を逐て施行すべし.
  • 第11条
    胸中を豁大寛広にすべし.僅少の事を大造に心得て,狭迫なる振舞あるべからず.仮令才ありても其用を果さず.人を容る丶気象と物を蓄る器量こそ誠に大臣の体と云うべし.
  • 第12条
    大臣たるもの胸中に定見ありて,見込みたる事を貫き通すべき元より也.然れども又虚懐公平にし人言を採り,沛然と一時に転化すべき事もあり.此虚懐転化なきは我意の弊を免れがたし.能々視察あるべし.
  • 第13条
    政事に抑揚の勢を取る事あり.有司上下に釣合を持事あり.能々弁うべし.此所手に入て信を以て貫き義を以て裁する時は,成し難き事はなかるべし.
  • 第14条
    政事と云えば,拵(こしら)え事繕い事をする様にのみなるなり.何事も自然の顕れたるままにて参るを実政と云うべし.役人の仕組事皆虚政也.老臣なと此風を始むべからず.大抵常事は成べきだけは簡単にすべし.手数を省く事肝要なり.
  • 第15条
    風儀は上より起こるもの也.人を猜疑し,蔭事を発(あば)き,たとえば,誰に表向き斯様に申せ共,内心は斯様なりなどと,掘出す習いは甚あしし.上に此風あらば,下必其習となりて,人心に癖を持つ.上下とも表裡両般の心ありて納めにくし.何分此むつかしみを去り,其事の顕れたるままに公平の計いにし,其風へ挽

がまとめられた必読書とし回したきもの也.

  • 第16条
    物事を隠す風儀甚あしし.機事は密なるべけれども,打出して能き事迄もつつみ隠す時は却て,衆人に探る心を持たせる様になるもの也.
  • 第17条
    人君の初政は,年に春のある如きものなり.先人心を一新して,発揚歓欣の所を持たしむべし.刑賞に至ても明白なるべし.財帑(ざいど)窮迫の処より,徒に剥落厳沍(はくらくげんご)の令のみにては,終始行立ぬ事となるべし.此手心にて取扱あり度ものなり.
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