指しゃぶりをする,野菜が嫌い,片付けをしない,人見知りする,奇声を発するなど,子育てをしている中で多くの親が遭遇するであろう悩みを取り上げて,「どうしたらいいのでしょう?」という質問に,優しい口調で答えてくれている.多くの答えは,「大丈夫.何も心配することはありませんよ.」というものだ.要するに,昨今の親は心配性だということだ.読みやすい本だし,これを読んで気が楽になる人も多いのではないだろうか.
どの子も,きっと親から「あなたがいちばんすてきよ.大丈夫」と,言葉にしていってもらいたいのだろうと思います.
しかし,高学歴社会になり,専門的な情報が育児雑誌やインターネットを通じて自由に手に入るようになった今日,大人たちは専門知識という色眼鏡をかけて,こどもたちを見るようになりました.「はえば立て,立てば歩めの親心」と,わが子の日々の成長をいとおしむ親ならではの喜びを,手放してしまう人たちが出てきました.
こどもたちの発達に標準を示すものさしが提示されると,なにごともできてあたりまえ,できなければ障害や発達の遅れがないかと不安にさせられる親が増えました.標準より遅いと「やっと歩けるようになった」「やっとしゃべれるようになった」と,控えめに小さくしか喜べなくなっています.幼い子にとって,きのうまでできなかったことが今日できるようになったことは,新しい世界を手に入れたのと同じくらいうれしいことなのです.でも,親は次々にやってくる発達指標のハードル越えに緊張を強いられ,こどもの成長のいまを心から喜びとする感動が希薄になってしまいがちです.なんともったいないことでしょう.
いま親に求められるのは,あちこちで流布される専門情報を拾い集めて不安になることではなく,目の前にいるわが子をしっかり見ることです.