高校生・大学生に是非とも読んで欲しいと思う.
如何に生きるべきかということを,多くの実例を交えながら,わかりやすく説いている.必ずや,心に響くことが見付かるだろう.もちろん,何が心に響くかは,人によって,読むときによって,それぞれ異なるに違いない.「一燈照隅・萬燈遍照: 足下を見つめ直す」に書いた通り,私も大いに学ぶことがあった.
本書では,人間にとって最も大切なのは「徳」であり,徳性を身に付けるために修練しなければならないと説く.
大体,人間内容には,本質的要素と属性と二つある.つまり,本質と属性とに分けることができる.
我々の才智・芸能というものは,もともと属性である.どんなに立派であっても,どんなに有効であっても,要するに付属的性質のもので,決して本質ということができない.
人間たることにおいて,何が最も大切であるか.これを無くしたら人間ではなくなる,というものは何か.これはやっぱり徳だ,徳性だ.徳性さえあれば,才智・芸能はいらない.否,いらないのじゃない,徳性があれば,それらしき才智・芸能は必ずできる.
では,人間として自己を錬成するために必要なものは何か.それは3つあるという.寸暇を惜しむこと,私淑する師と良い友人を持つこと,そして,愛読書を持つことだ.
第一に,寸陰を惜しむということです.
その次に心得べきことは,やはり「良き師・良き友」を持つということであります.
平生からおよそ善い物・善い人・真理・善い教・善い書物,何でも善いもの・勝れているもの・尊いものには,できるだけ縁を結んでおくことです.これを勝縁といい,善縁といいます.
良い師友と同時に,人間はどうしても愛読書がなければならない.座右に愛読書を置いておきたいものです.
なるべく精神的価値の高い,人間的真理を豊かに持っておるような書がよい.
ということは,たえず心にわが理想像を持つ,私淑する人物を持つ,生きた哲学を抱くということであります.これは,我々が人間として生きてゆく上に最も大切なことです.
現代人の一般的缺陥(けっかん)は,あまりに雑書を読み,雑学になって,愛読書,座右の書,私淑する人を持たない.一様に雑駁・横着になっている.自由だ,民主だということを誤解して,己をもって足れりとして,人に心から学ぼうとしない.これは大成するのに,最も禁物であります.
この他にも本書では様々なことが記されている.日本の教育の失敗についても厳しく指摘がなされているが,その中から,次の文章を引用しておきたい.世間体の良い大学に通う学生には,肝に銘じて欲しいからだ.
大学を出た人は偉いというように理解されまして,なるほど大学を出た者は頭も良く才気もありますが,人間の本質的な修行をしていない秀才という人々が沢山卒業しまして,そういう人々が指導者となって,近代の組織を動かしましたからその支配制度は,諸事にわたってまことにスマートで器用でありますが,人間として最も大切なことをとり残しております.これは日本の深刻な教育の失敗であります.
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